Vol.11「デザインビジネスの新潮流」は掛け声だけでは動かない
西尾直事務所/西尾 直

<デザイン界のウラ事情>

組合員の増強はKDOUかねての宿願ですが、そろそろ従来の戸別勧誘に替る仕掛けが必要かもしれません。例えば関西の全デザイン事業所に向けた「業界モラル(業界認識の自覚と意欲)の促進キャンペーン」をイベントとして試みるのも一案です。

◆やがて個々に還る業界全体のメリットを考えよう
過日、ある会合で「ODC(財・大阪デザインセンター)の賛助会員にはメリットがない」と言うデザイナーがいましたが、この発言には、ODCを含めたデザイン振興行政とデザイナーとの、ここ半世紀に及ぶさまざまな起伏が凝縮されているようです。
もとより振興行政にかかわるデザイナーとしてメリットの有無を問うことは当然ですが、さし当たってODCに期待するメリットとは何を指しているのか、が問題です。例えば国民の利益は行政の原則ですが、個人を対象とする政策はあり得ません。
同様に自治体の施策を代行するODCへの投資の見返りもまた、デザイナー個々の実利よりも、やがて個々に還元されるデザイン業界全体のメリットとして受けとめたいものです。しかし、この発言もそうですが、デザイナーは一般に、業界を単位とした見方や考え方とはなじみにくいようです。行政が長年デザイン分野を「業界として」扱いかねているように、行為はビジネスですが、何かと文化的評価を期待する旧来の体質が根強く浸透した異例な業界とも言えそうです。
「業界全体のメリット」がデザイナーの目には他人事と映ったとしても当然かもしれません。

◆日本の「デザイン業界振興」は大阪から始まった
因にODCが、正式な事業として「デザイン業界の育成支援」に取組んだのは91年。地域限定とは言えデザイン行政史上に「デザイン業界振興」が始めて登場した貴重なひとコマです。
あるいはさらに15年程遡った75年、KDOUの前身のODOUの発足は、周知のようにODCの全面的な支援によって実現した戦後日本初の業界組織(正式な事業協同組合)です。
大阪デザイン業界には最大のメリットですが、当時のデザイナーにその自覚はなく、むしろこの辺りから業界組織への偏った見方が定着する「不本意な副作用」が始まったようです。この副作用には、かねて豊富な実績を重ねた各専門分野別デザイナー団体の影響も強く働いています。デザインの、とりわけ文化的側面をアピールする多彩な活動が、内外の高い評価と共に、広くデザイナーの信頼を集めています。後発の業界組織に対する無理解、無関心も当然の成行きです。
ただ、これらのデザイナー団体はいずれも各領域毎に分立した公益法人です。舞台は同じデザインですが、法的な性格、活動範囲共、今回の主役(業界組織)ではありません。会員構成も社会的な身分保障で言えば他業界の人達が含まれています。

◆業界組織と公益法人それぞれの社会的な役割
一方、デザイン事業所による業界組織の働きは、業界共通利益の確保や経営に関する有形無形の支援など、個々のビジネス環境の成熟を目標とする産業基盤整備への地道な作業の積み重ねです。この取組みには現代産業の一業界を代表する単位として、政策措置の対象となる行政上の位置付けを土台に、関連他業界との連携も重要です。
このように公益法人団体、業界組織それぞれに、性格に応じた社会的役割があります。ですから二者択一ではなく、並立する両者の適切な使い分けが、自立した産業分野本来の姿です。しかし、このふたつを明らかに混同したデザイン分野では、両者の活動が重複、競合するかのような錯覚もあるようです。
創設以来30年余り、未だに組合員が百社に満たないKDOUの現状を見れば、その間の働きが健全な業界成長への布石として順当に機能したとは思えません。
何かと「不本意な副作用」を抱え込んだ関西のデザイン業界は、かつて手にした貴重な「業界全体のメリット」を、どうやらうまく活かしきれなかったようです。

どの産業分野でも、業界活動に行政のバックアップは不可欠ですが、デザイン分野では、前回の「不本意な副作用」の一方で、行政側にも業界組織に期待するそれなりの事情があります。

◆経済産業省は何故JDBを作ったか
周知のようにデザイン業は◆登録、営業認可等一切フリーですから、行政当局には業態、業容はもとより事業所実数の確認すら実際には不可能です。仮に業界対策を立てようにも、「政策措置の対象範囲を特定する基準」が曖昧では、政策自体が成り立ちません。行政措置の対象となる法的な資格を整えた組織(事業協同組合等)が必要な理由です。
かつてODOUを作ったODCの思惑もそうですが、99年のJDB(日本デザイン事業協同組合)の設立もその一例です。
この構想はこうした業界事情を見かねた経済産業省が(財)日本産業デザイン振興会を通じて働きかけた全国デザイン業界再編の試みです。この背景には、平成大不況と産業構造の転換に伴うデザイン行政の改革があります。
「デザイン行政ルネッサンス」と銘打った新政策の発表は03年ですが、その間、所管は貿易商(96年迄)から産業政策局、生活産業局を経て98年、現在の製造産業局へ移管しています。
いわばデザイン行政新体制の前座をつとめたJDBですが、しかし、当初の大構想とはウラハラなその後の動きを見る限り、経済産業省の取組みに一貫した方針が読みとれません。

◆地域業界組織がデザイン振興行政を支える
日本全国のデザイン業界と行政の間を結ぶこの構想には、しかし、行政側の要望と業界事情に即した最適な仕組みを、両者の間で調整する大事な手順が抜け落ちていたようです。
例えばデザイン行政の実際は、全国一律の大まかな措置ではなく、それぞれの地域特性に根差した各自治体の取組みが原則ですから、業界との連携強化には、地域毎の実質的な組織作りの先行が、この原則に従った順当な手順です。
あるいは全国一律組織について回る中央(実際には東京地区)偏重はデザイン分野に限りませんが、そうでなくても地域格差は必ず起こるものです。しかし、制度上の格差でなければ地方も努力します。やはり地域組織が先決です。
JDB構想にも、各地方経済産業局単位の支部編成が盛り込まれていましたが、その取組みを先送りしたJDBのその後を見れば、活動の実態は明らかに「東京支部」の範囲を指しています。
因にKDOUは、業界事情を無視した一方的な手続きに講義する正式文書を送りましたが、全国各地に実情に応じた業界編成への適切な措置ならば反対する理由はなかったはずです。

◆成熟したKDOUの働きがやがて人びとの信頼を呼ぶ
以来10年。次の手(支部編成)を打つ気配の無い業界再編策もずさんですが、その間の成行きに無関心な全国デザイン業界の姿勢にも疑問は残ります。ただ現実には、業界という実体を持たない地方の実状や、専門業種それぞれにデザインビジネス特有の業界事情もあるようです。
しかし、問題はもはやそのことよりも、技術面の高度な専門化、細分化の一方で、デザイン機能の統合化が叫ばれる今、必然的なビジネス環境の変化に対応する、新ソフト産業としての業界基盤の底上げが、各専門領域単位の利害や思惑を越えて共有する最優先課題となります。
もとよりそれは、単に業界利益の追求ばかりではなく、例えばすべての産業分野に求められる社会的、公共的義務は、正直に言えばデザイナーの意識にかつてなかったテーマです。とりわけ零細なデザイン業界では、個々の負担をカバーする業界組織の働きに、人々は期待します。舞台はKDOUの出番です。
ただし業界活動のシナリオに「タナボタ」を待つ人の出る幕はありません。デザイン業界成熟への花道は、まずKDOU組合員ひとりひとりの心懸けが開くものです。明日とは言わず、それぞれの役柄で、今日からこの舞台に取組んでください。

デザイン業界ウラ事情を綴ってみましたが、「これではオモテ事情や」と言う声もあるようで、どうやらはハンパなタテマエが過ぎたようです。やはりホンネは何かと活字にしにくいものです。

◆「数の力」に頼るのは、本来は不本意ですが
デザイナーは一般に、メディアを賑わす最先端デザイン情報に目を捉われ勝ちですが、日頃身の回りにはデザインビジネスを支えるさまざまな雑務がぴったりついて回っています。
とりわけ事業所の経営にかかわる業務の多くは、従業員の多少にかかわりなく(たとえ1人でも)ビジネスとしての社会的義務を伴います。デザイナーにはまさしく雑事とも言えそうです。
しかし、そのそれぞれにプロが存在することを思えば、決して安易な作業ではありません。
こうした経営上の負担をカバーする有形無形の仕組みを整えた業界組織のバックアップは貴重です。時にはデザインビジネス共通の利益を増進する表向きの取組みよりも、この働きに期待するケースも少なくないはずです。
ただこの仕組みには、「数の力」が物を言います。
「3人寄れば…」が300人寄れば知恵も力も百倍になる、とは限りませんが、世間の仕来りはどうやらそれを目途に成り立っているようです。事業協同組合の効用もそのひとつです。個性と感性が、あるいは知恵と技が支えるデザイン活動に、「数の力」は本来なじみませんが、ここでは単なる数字と言うよりも、一般産業界や行政当局への目に見えない説得力として有効に働きます。「KDOU加盟事業所300社」を目指す根拠のひとつでもあります。
いかにも大まかな目安ですが、この「300」は、関西一円に拠点を持つデザイン事業所のおよそ10%と見ています。
新ソフト産業として注目を集めるデザイン業界のことですから、デザイナーの間に、業界活動や業界組織に対するごく一般的な知識が普及すれば(本来は常識ですが)この数字は自然とついてきます。
高望みではありません。
個別の加盟勧誘と併せて、業界組織の普及徹底をアピールする効果的な仕掛けをKDOUに期待する理由です。

◆業界改革へ、チャンスを作ろう、チャンスを活かそう
かつてODOUには、DAS(社)総合デザイナー協会の会雑誌に「ODOU加盟募集広告」を掲載の上、「デザイナーはDASへ、デザイン事務所はODOUへ」という当時にしては(今なら尚更)常識はずれの型破りなキャンペーンを試みた実績があります。
仕掛人として正直に言えば、成果はゼロ!
度々述べたデザイン業界に対する「不本意な副作用」を甘く見たわけではありませんが、しかし、こうした目論見には地ならしともいえる「業界認識の初歩的な理解」へ、1から取組む手順に明らかな手抜かりがあったようです。
あるいはこうした仕掛けには「潮時」があります。最善のタイミングは創設時ですが、30年前の反省よりも、例えば、いま取組む支部網の設備など、キッカケとして活かしたいものです。

◆デザイン業界が変われば中小企業が元気になる
ふり返って、ここ半世紀のデザインをめぐる大きな流れにには、経済や社会の波風が常に先行しています。デザイン機能の本質と言えばそうですが、デザイナーや業界が自ら働きかけた変化は例がありません。
ですからデザイン分野の因習を相手に回す取組みは容易ではありませんが、仮にKDOUが試みる「デザイン業界改革」が陽の目を見れば、デザイン史上初の快挙です。
この試みは、単にKDOUの発展ばかりが目的ではありません。最初に述べた「デザイン業界全体のメリット」とその積み重ねが、やがてデザイン業界を実質的に支える中小企業全体の健全な成長に結びます。これは「タテマエ」ではありません。デザイン業界が、零細な規模とは言え、多くの中小企業の中の一業界であることも忘れないで下さい。

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